無線通信 ~ Bluetoothとは ~

や個人が複数台のPCを所有することは珍しくなく、また、モニタやプリンタ等のデバイスも増えてくると、多くの人がある問題に悩まされることになります。

それはケーブルの問題です。

一般的なデスクトップPC1台にしても、本体とディスプレイ、マウス、キーボードのケーブルを差し込まなければなりません。さらにその他のデバイスが加わると、ある程度レイアウトも固定されてしまい簡単に移動することもできません。

そのうえ、コネクタの形状が異なったりケーブルの種類が異なったりと、何かと面倒です。そこで、ケーブルを使わずに「無線」でデバイスを接続してケーブルレス化を図る人も増えてきました。

こうした無線規格の中で特に普及しているのが、

Bluetooth(ブルートゥース)

という規格です。

すでにお馴染みの規格なので、Bluetooth規格のロゴマークを見たことがあると思います。

Bluetoothのロゴのイメージ

2023年現在では、主にスマートフォンを中心に関連デバイスを無線接続する規格として利用されることが多くなっていますが、この「青い歯」という名前の由来をご存じでしょうか。

1998年に通信業界とコンピュータ業界からエリクソン、ノキア、IBM、インテル、東芝の5社が中心となって「Bluetooth SIG(Special Interest Group)」という団体が設立され、Bluetoothが発表されました。

Bluetoothという名前は、10世紀のデンマーク王であるハーラル1世の異名「ハーラル青歯王」に由来しています。ハーラル1世はデンマークとノルウェーを平和的に統一したという人物です。

その功績にちなんで、当時乱立していた様々な無線通信規格を統一したいという意味合いが込められています。企業連合の筆頭であったエリクソン社はスウェーデンの会社であり、同社の技術者が命名したようです。

そのねらいどおり、キーボードやマウスなどのパソコン周辺機器をはじめ、スマートフォンとその周辺機器、タブレット、カーナビ、家庭用ゲーム機など、様々な機器にBluetoothが搭載されています。

こうしてBluetoothは生活に密着するレベルにまで普及し、日常的に利用されている方も多いと思いますが、無線通信規格であることは理解していても、Wi-Fiとの違いを説明することができるでしょうか?

両者の違いを端的に言うと、

Wi-FiとBluetoothでは使用目的が異なる

ということになります。

Wi-Fiは、基本的にインターネットに接続する目的で使用します。PCをWi-Fi接続してインターネットを利用したり、ゲーム機をWi-Fi接続してオンラインゲームを楽しんだりします。また、ネットワーク内のファイル転送など、大容量の通信に利用されます。(Wi-Fiについて詳しくは 無線LANの規格とセキュリティー を参照してください)

一方、Bluetoothは近距離にある機器同士を接続するために使用し、大きな通信容量必要としません。先述のとおり、ケーブルレス化によってスッキリさせる目的で利用するケースが多いです。(近年のユースケースは後述します)

そのため、Wi-Fiのデータ通信量は大きく、Bluetoothの通信量は少ないという違いがあります。

ただ、技術的にはBluetooth経由でもインターネット接続が可能です。そうなると、通信容量の違いだけで同じものだと言えそうですが、もう少し詳しくみていくと別物であることが理解できます。

まず、

Wi-Fiは無線LANの規格でBluetoothは無線PANの規格である

という違いがあります。

LANLAN・WANとは で学習のとおり「Local Area Network」の略で、利用者が限定された閉じたネットワークのことですが、エリアは広く同一建物内にあるネットワークとされています。Wi-FiはLANの無線通信の規格です。

一方、PAN(パン)は「Personal Area Network」の略で、LANよりも狭い範囲のネットワークを意味します。LANのようにパソコン同士をネットワーク化するような大きな範囲ではなく、数センチ~数メートルの範囲でデバイスを接続するのが一般的です。

Bluetoothなどの無線によるPANを「WPAN(ダブリュ パン)」と言います。WPANは「Wireless Personal Area Network」の略で、無線PANとも呼ばれています。BluetoothはWPANの規格になります。

LANPANは、IEEE(アイ トリプル イー)という米国の電子技術団体の「802委員会」によって規格が標準化されており、LANについてはIEEEの802.11小委員会、PANについては802.15小委員会によって規定されています。(IEEEについては インターフェースとは を参照してください)

つまり、Wi-FiもBluetoothも広い意味では同じ近距離無線通信の規格ですが、厳密には異なる規格になります。

次に、

通信プロトコルが異なる

という違いがあります。

Wi-Fiの仕組みは、ほぼイーサネットと同じで有線と無線の違いがあるだけです。イーサネットは、LAN・WANとは で学習のとおりインターネットと同じ通信の仕組みです。

つまり、Wi-FiはLANやインターネットと同じTCP/IPプロトコルで通信しますが、Bluetoothはプロトコルが異なっています。(プロトコルについて詳しくは、プロトコルとは を参照してください)

詳しくは後述しますが、 Bluetoothでは用途に応じで様々なプロトコルを使います。そのため、目的や機器に合わせて、それぞれのプロトコルの使用方法などをまとめ、手順書のように標準化しています。

この手順書を、

Bluetoothプロファイル

と言います。

例えば、プリンタで印刷するためのプロファイル、マウスやキーボードを接続するためのプロファイル、音楽を再生するためのプロファイルなど様々なプロファイルが策定されています。

したがって、プロファイルごとに使用するプロトコルや通信手順などが異なるということになります。

このように、Wi-Fiとはプロトコルも異なっています。ただ、広い意味で同じ無線通信規格であり、なかなか違いを説明するのは難しいかもしれません。

では、Bluetoothの特徴と仕組みを詳しくみていきましょう。

まず特徴ですが、これもWi-Fiと比較するとよくわかります。

BluetoothとWi-Fiの比較
規格 Bluetooth Wi-Fi
周波数帯域 2.4GHz帯 2.4GHz帯、5Ghz帯、60GHz帯
最大速度 3Mbps 54Mbps、300Mbps、6.9Gbps、9.6Gbps
通信距離 約10m 約100m
消費電力 少ない 多い
接続端末数
(同時接続)
最大8台 最大100台程度
(ルータ等の製品による)

一見すると、Wi-Fiのほうが圧倒的に優れているように見えますが、このうち「消費電力」が少ないという特徴は非常に有益で、これによってバッテリーや電池を電力源とするデバイスで利用できるというメリットがあります。

Wi-Fiでは、基本的に無線ルータ(アクセスポイント)を設置してそこに接続するようになります。しかし、無線ルータを介してマウスやキーボードを接続することはまずありません。(Wi-Fi Directという直接接続可能な規格で接続するケースはあります)

これは、電力消費も通信量も少ないデバイスはBluetoothで十分なためです。したがって、Bluetooth規格しか搭載されていない機器がほとんどです。

現在では、スマホを親機としてイヤホンやスマートスマートウォッチなどをBluetoothで接続する形態が一般化しています。インターネットに接続しない機器の接続は、Bluetoothの方が簡単で楽なのです。

逆にインターネットに接続する場合は、Wi-Fiが便利です。通信プロトコルが同じであるため、Wi-Fiルータなどのアクセスポイントは通信規格を変えずにプロバイダに接続可能で、そのままネットワーク内の端末もインターネットに接続することができます。

しかし、Bluetoothは容量が小さく速度が出ないことや、プロファイル、プロバイダ接続の問題などから、Bluetooth規格のままインターネットに接続することができません。(BluetoothでもTCP/IPプロトコルによる通信は可能です)

そのため、LTEなどでインターネットに接続可能な機器にBluetooth接続してインターネットを共有する方法が一般的です。(LTEについて詳しくは、ブロードバンドとは を参照してください)

逆に言えば、通信キャリアのインターネット回線を利用しないため、データ通信料が発生しないという特徴もあります。

また、Bluetoothを利用すれば、その規格に適合さえしていれば、異なる機器同士の通信規格を気にする必要がないという製造上のメリットもあります。

では、デメリットとしてはどのようなものがあるでしょうか?

上表のとおり、Wi-Fiと比較すると速度も距離も劣りますが、近距離の通信に利用される規格であり、必ずしもデメリットとは言えません。しかし、通信容量が少ないということは大きなデータを格納できないということであり、そのためセキュリティ対策が難しいという側面があります。

実際に、これまでセキュリティ上の脆弱性が数多く発見されており、接続する機器のファームウェアを常に最新のものにアップデートするなどの対策が必要となっています。脆弱性の問題は大きなデメリットになります。(後述するバージョンによっても異なります)

また、Wi-Fiの一部の規格と周波数帯域が重複しているため、

2.4Ghz帯のWi-Fiと同じ場所で利用すると電波干渉が起こる

というデメリットもあります。

これは、Wi-Fi側でもBluetooth側でも影響があり、どちらでも速度低下が起こり得ます。電波干渉が起こってしまうと、Bluetoothは帯域を変更できないため、基本的にはWi-Fi側の帯域を変更するようになります。

以上がBluetoothの主なメリット、デメリットになります。

次に、仕組みを詳しくみていきましょう。

Bluetoothの場合も、Wi-Fiと同じように親機となる機器がそれぞれの通信を仲介します。

Bluetoothの接続形態は、親機となる1台が「マスター(Master)」、子機となる他の機器が「スレーブ(Slave)」と呼ばれます。マスターは、Wi-Fiのアクセスポイントと同じように通信の仲介役となります。

ただし、中継専用の機器が必要になるわけではなく、接続する機器のいずれかがマスターとなるので、Bluetooth対応機器だけで相互接続が可能になります。したがって、機動性が非常に高い仕組みになっています。

また、マスターを交代することも可能で、マスター機器が固定されるわけではありません。とは言え、通常はPCやスマートフォンがマスターとなります。

スマートフォンでイヤホンとスマートウォッチをBluetooth接続するケースを例にすると、スマートフォンが「マスター」、イヤホンとスマートウォッチが「スレーブ」になります。

マスターであるスマートフォンを中心として、Bluetoothのエリアである約10mの範囲内でネットワークが形成されます。

こうしたネットワークがWPANであり、BluetoothによるWPANを、

Piconet(ピコネット)

と言います。

ピコネットでは、上表のとおりスレーブを最大で「7台」、マスターを入れて「8台」まで接続することができます。

ピコネットの概念図

1つのピコネットでのスレーブは最大で7台までですが、この例で言えば、マスターであるスマートフォンを他のピコネットのスレーブにすることによって、さらに接続台数を増やすことが可能です。

スキャッタネットの概念図

これは、マスターを交代できることから可能となります。ピコネットA内で通信を行う場合はスマートフォンがマスターとなり、ピコネットBと通信を行う場合はスマートフォンがスレーブとなります。

こうしたピコネット同士で相互接続されるネットワークを、

スキャッタネット

と言います。

スキャッタネットによって、理論的には最大256のピコネットを接続することができ、最大2,048のデバイスを接続することができますが、スキャッタネットを構成するまでに機器を接続するケースは一般的ではありません。

では、具体的にそれぞれの機器がどのように接続されるのかということですが、ピコネットの範囲内のスレーブを無条件で接続するわけではありません。それではセキュリティも何もなくなってしまいます。

Wi-Fiの場合は、SSIDやパスワードを設定して通信を開始しますが、Bluetoothの場合は、マスターとスレーブの間で手動によるPINコード認証を経て、公開鍵暗号方式とは で学習した共通鍵暗号方式で暗号化通信を行います。(公開鍵暗号方式を用いる通信は後述します)

まず、マスターとスレーブが1対1で相互認証し、正しい接続を確立してから通信を行うわけです。

この通信確立のことを、

ペアリング

と言います。

スマートフォンで実際にペアリング操作されたことがある方も多いと思います。一般的な操作は、スマートフォンと接続機器を「ペアリングモード」にして、スマートフォンの画面に表示される該当機器を選択するとペアリングが開始されます。

ペアリングは通信相手を登録することと同義です。ペアリングすることによって、次回から自動接続が可能となります。(自動接続は機器やアプリケーションの設定によります)

では次に、Bluetoothの細かい分類を知っておきましょう。

これまではBluetooth全体の仕組みを学習してきましたが、用途などに合わせていくつかの分類が存在します。

一つ目の分類は、

Class(クラス)

と呼ばれる分類です。

これは電波強度を規定したもので、例えるなら、大学(Bluetooth)と学部(Class)のようなものです。

Bluetoothのクラス
クラス 電波強度 到達距離
Class1 100mW 100m
Class2 2.5mW 10m
Class3 1mW 1m

到達距離が長いクラスほど電波強度も強くなっていますが、あくまで理論的な最大値です。

Class1は到達距離が長いため、広い場所で使うマイクやスピーカー、USBタイプのアダプタ(送受信機)などに採用されており、Class2はマウスやキーボード、イヤホン、スマートウォッチなどで採用されているもっとも身近なクラスになります。

Class3については、日本で採用されている製品はほとんどありません。

Class1は到達距離が100mもあることに注目されると思いますが、これは国際基準であり、日本で100mのスペックを実現することは困難となっています。(後述するバージョンによっても異なります)

なぜなら、日本の電波法で2.4GHz帯の空中線電力という出力の上限が「10mW」に設定されているからです。そのため、日本のClass1製品の電波強度(出力)は最大10mWに抑えられていることになります。障害物なども影響するため、10m程度しか届かない場合もあるので注意してください。

また、電波強度が強いほど消費電力も多くなります。距離をとる必要がなければClass2で十分と言えます。しかし逆に言えば、Class1の製品を利用すれば短い距離でも最大10mWの出力で通信が可能なため、途切れにくくなります。

現在ではClass1を採用した製品が多くなっています。出力が2.5mW~10mWであれば到達距離に関わらずClass1に分類されます。使用目的に応じて選択するようにしましょう。

次に、二つ目の分類です。

プロファイル

これは先述のとおり、機器や目的ごとにプロトコルなどの通信手順をまとめたプロファイルの分類です。Bluetoothの分類というと語弊があるかもしれませんが、Bluetoothには通信に必要なプロファイルが複数あります。

なんとなく難しそうですが、要はどのような機能を持っているかということです。例えば、スマートフォンとイヤホンがBluetooth接続するとき、双方が音声を再生できるプロファイルを持っている必要があります。

こうしたプロファイルも、Bluetoothの規格策定を行う「Bluetooth SIG」によってまとめられています。

Bluetoothプロファイルの一例
プロファイル名 内容
A2DP 音声を伝送するプロファイル。高品質の音楽ストリーミングをサポートし、スピーカーやイヤホンなどで使用される。
AVRCP オーディオやビデオ機器をリモート制御するためのプロファイル。再生、一時停止、スキップなどをサポートする。
HID マウスやキーボードの入力機能を制御するプロファイル。マウス、キーボード、ゲームコントローラーなどで使用される。
HFP ハンズフリー通話のためのプロファイル。音声通話の機能サポートし、ヘッドセットやカーナビで使用される。
FTP ファイル転送を行なうためのプロファイル。FTPプロトコルとは異なる。PCやカーナビ、スマートフォンなどの対応機器同士であればBluetoothでファイル転送が可能。ただし、iPhoneは非対応。
VDP 動画データをストリーミング配信するためのプロファイル。ビデオカメラやデジタルカメラで使用される。
現在のところVDPに対応しているスマートフォンはなく、動画再生はWi-Fiを利用するのが一般的。そのため、カーナビなどとBluetooth接続しても動画再生はサポートされていない。

上表はあくまで一例であり、音関係、通信関係、操作系、認証系などプロファイル数はかなり多くあります。

なぜ細かいプロファイルが必要なのかというと、先述のとおり機器や目的によって通信プロトコルが異なることや、セキュリティーの確保、障害発生時の影響の最小化などの理由からです。

したがって、Bluetooth対応機種であっても、

接続する機器の双方が目的のプロファイルに対応していなければ通信できない

ので注意してください。

VDPの例にあるように、スマホとカーナビを接続してYoutubeを再生しようとしても音声しか再生されません。(この場合はBluetooth以外の方法で再生することになります)

対応プロファイルは製品の説明書に記載がありますので、購入時には必ず確認するようにしましょう。

では、最後の分類です。

バージョン

これは、文字どおりBluetoothのバージョンによる分類です。

Bluetoothは、1999年に開発されて以来バージョンアップを重ねてきました。古い機器では最新のバージョンに対応していないものがあるなど、バージョンによる違いにも注意する必要があります。

1999年がバージョン1.0であり、2023年現在の最新バージョンは「5.4」になっています。当然ながらバージョンが上がるたびに省電力化や多機能化など性能が向上しています。

それぞれのバージョンを細かく覚える必要はありませんが、必ず理解しておかなければならないのは以下の2つです。

Bluetooth Classic(クラシック)

バージョン1.0~3.0までがClassicに該当します。

これまでに学習してきたピコネットやペアリングなどの基本的な仕組みがこのClassicになります。Classicという名称どおり古い規格ですが、現在でも主にヘッドホンやイヤホンなどオーディオ関係の分野で利用されています。

Classicの時代は速度を重視する傾向があり、次世代規格と比較して通信速度は速いものの、消費電力が大きいという特徴があります。通信速度は概ね1~3Mbps程度になります。

Bluetooth Low Energy(BLE

2009年に発表されたバージョン「4.0」以降が該当します。Low Energyの名称どおり、低消費電力の規格になります。

速度を追求することよりも省電力に注力し、消費電力を半分以上まで減らした超低消費電力規格です。通信速度は概ね1~2Mbps程度になります。

速度は劣るものの消費電力以外にも通信範囲が向上し、100m以上の到達距離を実現しています。また、省電力化によりバッテリーの小さいIoT製品にも搭載できるようになりました。現在ほとんどのBluetooth製品がBLE規格に対応しています。

ただし、Bluetooth Low Energyから仕様が大きく変わり、

ClassicとBLEの互換性がなくなっている

ので、注意が必要です。

つまり、同じBluetoothでも双方で通信できない「別物」と言ってもいい規格になっています。(互換性については、互換性とは/バージョンとは を参照してください)

例えば、バージョン4.0以降の製品同士(4.0と5.0など)では通信可能ですが、バージョン3.0の製品とバージョン4.0の製品の通信はできないということになります。

とは言え、バージョン4.0以降の製品には、バージョン3.0以前のClassicに対応している(両方の規格に対応している)製品も多くあります。基本的にBLE対応の機器であれば通信することができるようになっています。

ただし、バージョンが異なる機器同士の接続は、数字が低い方の基準が適用されます。

ここでまたややこしい話をします。

2009年にバージョン4.0が発表され、BLE規格が始まった当時、下記のようなロゴが用いられました。

Bluetoothのロゴのイメージ

左から「Bluetooth」「Bluetooth SMART」「Bluetooth SMART READY」の3つの商標です。

まず「Bluetooth」はClassicを表し「Classicのみに対応」の意味となります。「Bluetooth SMART」はBLEを表し「BLEのみに対応」の意味、そして「Bluetooth SMART READY」は「両方に対応」の意味となります。

しかし、この「SMART」のロゴは2016年に廃止されました。ややこしいですが、現在は「Bluetooth」のロゴと商標のみとなっています。これらのロゴがある製品を利用する場合には、こうした意味があることを知っておきましょう。

次に、BLEの通信の仕組みについてです。

Classicの場合は、マスターとスレーブがピコネットを形成する仕組みでした。

BLEでは、マスターが「セントラル」、スレーブが「ペリフェラル」というオシャレな名称に変更されています。しかし、セントラルがマスター(親機)でペリフェラルがスレーブ(子機)の意味で変わりありません。

ピコネットと同様に、PCやスマートフォンがセントラルになり、マウスやスマートウォッチがペリフェラルになります。

ただし、BLEではピコネットという概念はあまり用いられません。

スター型(スタートポロジ)

というネットワーク概念が用いられます。

もっとも、ピコネットもスター型に分類されるので、意味合いとしてほぼ同じです。そのため、BLEピコネットという呼び方をする場合もあります。

なぜこのような違いが起こるのかというと、Classicとの互換性がないことからも言えるように、BLEは設計思想が異なります。特定の接続形態(トポロジという)に依存しない柔軟性を持たせているため、ピコネットに限定されるわけではないからです。スター型は、有線LANの一般的な接続形態で、ピコネットを含む大きな概念となっています。

具体的な違いは、

範囲内に入った機器を自動的にペリフェラル(スレーブ)として認識することが可能

になっています。

Classicの場合は、手動でペアリングを行う際に双方の機器を認識しますが、BLEは範囲内の機器をすべて自動認識させることが可能になっています。

なぜ範囲内の機器を発見して認識することができるのかというと、ペリフェラルが電波信号を定期的に発信し、その信号をセントラルが受信するからです。

この信号は、ペリフェラルが自分を発見してもらうために、不特定多数に向けて一方向の発信を行うものです。こうした発信を「ブロードキャスト」と言います。

BLEではこのブロードキャストのことを、

アドバタイズ

と言います。

セントラルは、その信号をキャッチしてペリフェラルの存在を認識します。セントラルがアドバタイズ状態のデバイスを探し出すことを「スキャン」と言います。

こうして、認識した複数のペリフェラルを接続することが可能です。

BLEの概念図

ただし、先述のとおりセキュリティ上のリスクが高いことやプライバシー保護などの理由で、ペアリングすることが推奨されています。そのため、任意のデバイスを選択してペアリングを行うのが流れになります。

BLEのペアリングもPINコードが利用される場合がありますが、公開鍵暗号方式とは で学習した共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式を組み合せたハイブリッド暗号方式で、暗号通信を行います。

また、電力消費を低減するために、ペリフェラルデバイスはアドバタイズ後に接続が完了すると、スリープモードを維持し、通信時のみアクティブとなります。

こうしたBLEの仕組みは、iPhoneであればAirDropなどで利用され、近くの機器を検出して接続することができます。(その後のファイル転送は、デバイス間で直接Wi-Fi通信を行う「Wi-Fi Direct」規格で行われます)

さらにBLEの場合は、

スター型だけではなくその他のトポロジも選択することができる

ようになっています。

BLEにおいても、スター型で接続するとピコネット同様ペリフェラルが最大7台までの制約があります(バージョン5.0以降では最大数が増加傾向にあります)が、その他のトポロジではこの限りではありません。

PANの枠を超えた大規模なネットワークを構築することも可能となっており、BluetoothがPANの規格とも言えなくなりつつあります。

そもそも、なぜピコネット以外のトポロジが必要になるのかというと、接続台数以外にも大きな問題があるからです。

ピコネットではスレーブ側が別のマスターに切り替える際に自動切換えができず、手動で切り替えなければならないという制約があります。これは、ピコネット内にマスターは1台と決まっているためです。

つまり、

BLEではマスター(セントラル)の自動切換えや複数のマスターに接続できること

が必要になったわけです。

これらを実現したことにより、ClassicとBLEで別物とも言える規格となっています。なぜこのような仕組みが必要になったのかというと、様々なモノがインターネットと繋がるIoT時代が到来し、これらの機器とのスムーズな接続を目的としているためです。

例えば、医療機器や様々な電化製品を接続して、データ連携や制御を行うケースが一般化してきました。

医療機器であれば複数の人が利用します。ペリフェラル(スレーブ)である医療機器に対し、セントラル(マスター)となるスマートフォンは複数の人が持っています。それらのスマートフォンと接続の際に、都度手動で接続先を切り替えてペアリングしなおすような手間をかけるわけにはいきません。

したがって、BLEの特徴としては省電力であることと、柔軟な接続が可能となっていることです。

ただし、先述のとおりフリーの自動接続はセキュリティ上のリスクが高く、接続の際にはペアリングを一度実施することが推奨されているので、重要なことは「複数のマスターに登録できる」ことと言えます。

これは、

マルチペアリング

という機能になります。

この機能によって、イヤホンを複数のスマートフォンに登録したり、家電製品を複数のスマートフォンに登録することができます。

また接続台数を拡張する場合は、BLEではスキャッタネットを構成するのではなく、

メッシュ

と呼ばれるトポロジでネットワークを構成します。

少々専門的になるので詳細は割愛しますが、メッシュネットワークを構成することによって、多数の機器(後述するビーコンを利用したサービスや様々なIoT機器)との接続が可能となります。

メッシュによる大規模なネットワークが、ピコネットとは異なるBLEの主要な通信トポロジのひとつになります。

このように、ケーブルレス化が主目的だったBluetoothは、IoT機器との接続やセンサー機能によるデータ取得など、より進化した目的で利用されるようになりました。

なかでも、

ビーコン(Bluetoothビーコン)

というBluetoothの電波を発信する機器が一般的になってくると、ビーコンを利用したサービスが広がっていきました。

ビーコンとは、一定間隔でBLE電波を発信する小型の機器です。受信可能なスマートフォンなどの機器がエリア内に入ると、それらがビーコンの電波をキャッチします。つまり、ビーコンはアドバタイズ機器であり、そのアドバタイズをキャッチしているわけです。

基本的にはこれだけの機器ですが、ビーコンとスマートフォンを連動させ、センサーのように利用することができます。自動的に連動させるのではなく、あくまでスマートフォンのアプリをONにしている場合(利用を許可している場合)に、スマートフォンがエリア内に進入してくると、その情報をデータとして記録することができます。

例えば、複数のビーコンを施設内に設置しておくことで、人の位置情報や行動履歴、滞在時間などを把握することが可能になります。また、スマートフォンにそのエリアにある店舗のクーポンを送ったり、入退室管理をしたり、行動履歴を分析してマーケティングや個別の広告など、様々なサービスや戦略が可能になっています。

キーホルダータイプのビーコンを子どものランドセルやペットの首輪などに付けて防犯、追跡用として利用するケースもあります。この場合は、Bluetoothのエリアを離れると逆にアラームを鳴らしたり、Apple製品の場合は他ユーザーのエリアを利用(他ユーザーのエリアをネットワーク化)して広範囲をカバーするなどの方法が用いられています。

BLEビーコンは、LTEやGPSを利用した製品よりも省電力で位置情報の精度が高いというメリットがあります。

こうしてBluetoothは改良を重ね、頻回にバージョンアップが行われています。製品を購入する前には、バージョンとプロファイルが双方で対応しているか確認するようにしましょう。

長くなりましたが、以上でBluetoothの特徴と仕組みはすべて学習できたと思います。

Bluetoothは、誰でも簡単に様々なデバイスと接続できる技術です。しかし、簡単そうにみえて奥が深いのがBluetoothです。使用するのは簡単でも、仕組みを理解するのはなかなか難しかったのではないでしょうか。

今後、ますますBluetoothによって身の回りのモノやサービスが繋がっていくことになります。基礎をしっかりおさえておくと、安心して便利な技術を使いこなすことができると思います。

更新履歴

2009年7月28日
ページを公開。
2009年7月28日
ページをXHTML1.0とCSS2.1で、Web標準化。レイアウト変更。
2018年2月1日
ページをSSL化によりHTTPSに対応。
2023年10月21日
内容修正。

参考文献・ウェブサイト

当ページの作成にあたり、以下の文献およびウェブサイトを参考にさせていただきました。

文献
図解入門 インターネットのしくみ
Bluetoothとは?|無線化.com
http://www.musenka.com/info/bluetooth/index.html
Bluetoothって便利?
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0607/pda43.htm
Bluetoothとは何か?
https://www.tjsys.co.jp/focuson/clme-bluetooth/index_j.htm
開発視点の超簡単BLE入門
https://monomonotech.jp/kurage/webbluetooth/ble_guide.html
Bluetoothの『バージョン』とは?5.2の進化ポイント
https://time-space.kddi.com/ict-keywords/20190909/2738.html
アップル純正の紛失防止タグ「AirTag」はどうやって使うの?
https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/review/iphonetips/1323502.html
【サルでもわかるBLE入門】(3)BLEビーコンの基礎
https://www.musen-connect.co.jp/blog/course/trial-production/ble-beginner-3/